お初にお目にかかります。ぬりぼとけと申します。
突然ですが皆さん、プッチンプリンはお好きですか?
私は大好きです。
北海道産の生クリームを使用した、とろけるような食感・・・
甘味が好きな方なら、一度は舌鼓を打ったことと存じます。
そんなプッチンプリンも、なんと今年で50周年。
単純な話、我々霊長は半世紀もの間、プッチンプリンの甘美に酔いしれてきたことになります。とても美味しくて、嬉しいことですね。
美味しい・・・嬉しい・・・
しかし、このままで良いのでしょうか?
貰ってばかりでは霊長の格が廃ると言うもの。
50年の節目、普段”もてなす側”であるプッチンプリンを、”逆にもてなす”ことがしたい。私はそう考えました。
もう一度簡潔に言うと、「「プッチンプリンをもてなしたい」」これに尽きます。
とはいえ、方法に迷います。たかが1霊長(いちれいちょう)にできることなど限られており、現に私にできることなど、ちょっとしたものを作ることぐらいだからです。
・・・ものを、作る?
天啓を得ました。
プッチンプリンが収められている「「器」」を「「特別」」なもので作れば、それ即ちプッチンプリンへのもてなしとなるのではないでしょうか。
つまり・・・
それでは、始めます。
さて、皆さんは「特別な器」と聞いて真っ先に何を思い浮かべるでしょうか。
そうですね。99%の人が漆器を思い浮かべたことと存じます。思春期の皆さんがよく口にする「漆黒」の「漆」ですね。
漆の輝きは日本国内の思春期の少年少女のみならず、かつての世界を魅了していました。国外の例を挙げるならば、かの有名なマリー・アントワネットや、その母マリア・テレジアは熱心な漆器のコレクターとしての顔を持っていました。
つまり、漆器は中世のガチお嬢様にもこよなく愛された「「特別」」な「「器」」と言えるでしょう。
そこで今回は「脱活乾漆(だっかつかんしつ)」の技法を使って「漆器」を作っていこうと思います。
「脱活乾漆」とは、漆器制作の技法の一つで、有名な阿修羅像にも用いられていた伝統的な技法です。
がんばるぞ!!
はじめに、漆器の材料をざっくり紹介します。
- 上新粉(左上段)…うるち米でできた米粉です。
- 砥の粉(左中段)…砥石を粉砕してできた粉です。
- 地の粉(左下段)…珪藻土を粉砕してできた粉です。
- 和紙(真ん中上)…「石州紙」という薄く柔らかい和紙です。
- 漆(真ん中下)…漆です。漆(樹木)の樹液です。
- 麻布(右上)…麻布です。
- 顔料(右下)…顔料です。漆と混ぜて色漆を作ります。
では、作っていきましょう。
まず、空のカップを使って作った、石膏のプッチンプリンを用意します。
次に、上新粉で作ったお餅を水で溶かし、絵の具で色を付けたものを、3回ほど塗り重ねます。(色を付けるのは、塗った箇所が分かりやすいようにするためです。)
そして、生漆(きうるし、採取したものを濾過した漆のことです。)と、上新粉で作ったお餅を混ぜて作った「糊漆」を全体に塗っていきます。プリンみたいでかわいい。
あっ!
軽口を叩いて油断していると、倒れてしまいました。前途多難ですね・・・
全体を塗ったものがこちらです。古代遺跡から発掘されたオーパーツみたい。
塗りあがったものは、漆風呂(漆を固める酵素の働きを活性化させる程度の温湿度に調整した箱)に、硬化のために一晩程度置いておきます。
一晩経ったものがこちら。ダークネスになりました。これに・・・
麻布を貼っていきます。(まずは「地の粉漆(じのこうるし)(地の粉と生漆を混ぜたもの)」「切り粉漆(きりこうるし)(地の粉と砥の粉と生漆を混ぜたもの)」「錆漆(さびうるし)(砥の粉と生漆を混ぜたもの)」を順番に一日置きながら塗り重ねます。(ある程度の厚みのものが一気に硬化すると、中身が生乾きになってしまい、器として使い物にならなくなってしまうためです。)また、形を整え、漆の定着をよくするために、漆が硬化したら毎回砥石などで研磨します。その上に糊漆を塗って、和紙を二枚程度貼ります。同様に糊漆を接着剤として、和紙の上から麻布を合計五枚程度貼ってゆきます。麻布を一枚貼るごとに「地の粉漆」を布目の間に詰めて補強します。麻布を貼り終わったら、また和紙を二枚貼り、先ほどとは逆の順番で「錆漆」「切り粉漆」「地の粉漆」を塗ります。漆が硬化するのに一日程度かかるため、ここまで述べた作業にはで最短でも合計二週間かかる計算になります。)
そして、石膏を取り除きます。(石膏を割って取り除いたら、フチが真っ直ぐになるように研磨したのち、「取り除く過程で器に生じた破損箇所の修復」と「フチの部分の補強」のために、錆漆を塗ります。そして和紙を糊漆でフチを覆うように貼り、またその上から錆漆を塗ります。ここまで、顔料を混ぜた色の着いた漆を塗るための土台、「下地」の完成です。)
最後の仕上げに、色漆を塗ります。(下地が完成したら、「弁柄漆(べんがらうるし)(生漆を精製して水分を飛ばした素黒目(すぐろめ)漆に弁柄(鉄錆の成分、第二酸化鉄)という顔料を混ぜた赤茶色の色漆)」を補強と艶出しのために三回塗ります。こちらも形を整え、定着を良くするために一回塗るごとに研磨します。弁柄漆を塗り終えたら、設置面に「黒漆(くろうるし)(素黒目漆に鉄粉を混ぜた黒色の色漆)」を、それ以外のところに「朱漆(しゅうるし)(素黒目漆に王冠朱という顔料を混ぜた赤色の色漆)」を塗って完成です。朱漆は硬化が遅いため、じっくり硬化を待ちます。)
最初の転倒以外に特に「難」が発生しなかったので、ダイジェストでお送りしました。
そんなこんなで……
完成したものがこちらです。
とろみのある艶やかな輝き、まさに「「プッチンプリンをもてなす器」」としてふさわしく仕上がったのではないでしょうか。
裏返すと、カラメルがかかったような意匠に見えるように仕上げました。かわい〜
さて、完成したところで、早速プッチンプリンをもてなしていこうと思います。
「力(ちから)」で、プッチンプリンを、完成した漆器に移して・・・
それではご覧ください!!!これが私から贈る、プッチンプリンへの「特別なもてなし」です!!!
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あれ?
確かに器に入っているのはプッチンプリンのはずです。なんということでしょう。我々"下界の民"にも平等に柔らかな眩しい微笑みを向けてくれていたプッチンプリンが、「会員の紹介でしか入れない創作和食屋が提供するコーンスープ」にしか見えなくなってしまいました。ちょっと混乱しています。もう一回、落ち着いて見てみましょう。
落ち着いて見ても、「プッチンプリンをもてなす」と言うより、プッチンプリンに対して漆の格式を誤った形でぶつけることで萎縮させ、ありもしない創作和食屋の幻影を見て勝手に踊り狂うことになってしまいました。
いかに「漆」という特別な素材を使おうとも、「プリンらしさ」を奪ってしまうことでミスマッチになってしまったことは否めません。さながら悠々と歩くパリコレモデルたちの中で一人で爛漫と踊るチアリーダーのようです。漆という素材の特別さにかまけず、もっとプッチンプリン自身に寄り添った器づくりを意識するべきでした。
「誰かへの心からのもてなしも、贈られた者のアイデンティティや自由を奪ってしまうことがある。」そんな学びを得ました・・・
プッチンプリンはそのまま食べるか、お皿にプッチンして食べよう!!!
作った漆器には杏仁豆腐などを入れて使っています。
ぬりぼとけでした。それでは良い一日を。
追記:こちらの記事が「オモコロ杯2022」にて銅賞をいただきました。ありがとうございます。